ハーモニー 伊藤計劃
概要
大災禍の後にやってきた超健康社会では、多くの人間達が生命維持の大部分を外注していた。そんな管理世界のチェチェンの民族の中には、生まれつき意識をもたない人間がいて、その一人であるミァハという女の子が調和(ハーモニー)を起こして、世界から「わたし」という意識を消してしまう。
感想
拡張現実が生権力の監視社会をさらに発展させて、みんながみんなを監視する、すなわちブロックチェーンのような監視社会がこの物語では描かれている。そうした中で述べられる公共的身体、リソース意識という概念は身体の他者性を示すものであるが、これもまた、意識の領域まで発展する。「わたし」を失うハーモニーの後の世界は、果たしてユートピアなのだろうか。そして、これは現実的な問題である。人間の解剖が進むにつれて、どんどん身体は他者になっていく。自分という不安定の領域が、他者という安定した領域へと落ち込むのである。そんな凪の世界、安定のユートピア。それが人間の到達点なのだろうか。
作者は科学によって解剖される人間の、侵略されえない領域、つまり自分を求めようとしたのかもしれない。でも、それが失敗に終わった。ハーモニーが起こってしまった。
とにかく面白い小説なのでおすすめ。