面白い分析、つまらない分析、どうもいい話

小説・アニメ・映画などの、面白いとつまらないを分析するブログです。分析などと大層なことを言っていますが、アナリストでも何でもないので暇人が適当なことを備忘録としてつらつらと書いていくだけの、あれです。正確性は二の次です。記憶ガタリをすることもあるでしょう。後、どうでもいい話も挟みます。

ハーモニー 伊藤計劃

概要

 大災禍の後にやってきた超健康社会では、多くの人間達が生命維持の大部分を外注していた。そんな管理世界のチェチェンの民族の中には、生まれつき意識をもたない人間がいて、その一人であるミァハという女の子が調和(ハーモニー)を起こして、世界から「わたし」という意識を消してしまう。

 

感想

 拡張現実が生権力の監視社会をさらに発展させて、みんながみんなを監視する、すなわちブロックチェーンのような監視社会がこの物語では描かれている。そうした中で述べられる公共的身体、リソース意識という概念は身体の他者性を示すものであるが、これもまた、意識の領域まで発展する。「わたし」を失うハーモニーの後の世界は、果たしてユートピアなのだろうか。そして、これは現実的な問題である。人間の解剖が進むにつれて、どんどん身体は他者になっていく。自分という不安定の領域が、他者という安定した領域へと落ち込むのである。そんな凪の世界、安定のユートピア。それが人間の到達点なのだろうか。

 作者は科学によって解剖される人間の、侵略されえない領域、つまり自分を求めようとしたのかもしれない。でも、それが失敗に終わった。ハーモニーが起こってしまった。

 とにかく面白い小説なのでおすすめ。